THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術
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カテゴリー: ビジネス・経済, 食品・小売・サービス
公開日 2025.03.10
ツナ缶製造から始まり、現在は水産加工食品、ペットフード、機能性食品へと事業を拡大し、タイを代表する食品会社に発展したタイユニオングループ(以下、「タイユニオン」)。
食品会社として安定した業績を維持してきたが昨年、2030年までに2023年対比で売上高、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)をおよそ倍増させる目標を掲げ話題を呼んだ。同社の現状、戦略および課題を整理する。
同社は1977年に中国出身のクライソン・チャンシリ氏がサムットサーコーン県で小規模なツナ缶製造および輸出業を開始したことから始まった※1。海外事業は1997年に米国第三位のツナ缶ブランド「Chicken of the Sea」 を買収したことが最初であった。2010年以降、欧州市場のシーフードブランド買収を繰り返し、欧米市場でのシェアを獲得し、シーフード加工食品の世界最大手へと成長した(図表1)。
現在、欧米、アジア、アフリカに15の製造拠点を持ち、ツナ缶を主力とする15ブランドを販売しており、売上高の約90%をタイ以外の海外で稼いでいる。また、ツナ缶事業からの多角化を目指し、ペットフードやサプリメント事業へも事業領域を拡大してきた。
近年、研究開発に力を入れており、オランダにグローバルイノベーションセンターを設けて機能性食品の研究開発、自社ブランド製品のマーケティングを行っている。2022年にはペットフード事業を担うi-Tail社をタイ証券取引所に上場させた。この新規株式公開(IPO)では211億バーツを調達し※2、タイ資本市場の食品業界において過去最大規模となり話題を呼んだ。2023年にはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通じて代替プロテインの仏スタートアップAlgamaへ出資し、新製品開発を行なっている。
一方、マイノリティ出資であった非コア事業のロブスターレストラン事業からは撤退を決定しており※3、今後はコア事業である缶食品、冷凍冷蔵食品、ペットフード事業に投資を集中させる方針である。経営陣としては、創業者のクライソン・チャンシリ氏は2022年に自社株取引に絡むインサイダー取引疑惑により会長を辞任しており※4、現在は息子であるティーラポン・チャンシリ氏がCEOを務めている。
※1 海洋資源の持続可能性に取り組む 〜水産加工大手タイ・ユニオンのティーラポン社長インタビュー〜 – THAIBIZ
※2 Bangkok Post – Pet food maker i-Tail to raise B21.1bn, pricing IPO at top of band
※3 Thai Union Group announces intention to pursue exit of minority investment in Red Lobster | Thai Union
※4 2022年4月18日付プレスリリース | Thai Union
同社コア事業は主にツナやサーモンなどの缶食品事業、エビなどの冷凍冷蔵食品事業、ペットフード事業となる(図表2)。以下、各事業の現状について簡単にまとめる。
缶食品は主にツナ、サーモンの缶詰加工食品事業である同社の中核事業である。2023年度の売上高に占める割合は約47%を占め、粗利率19%と利益率も高く売上高および収益を支える事業である。ブランド缶の販売に支えられており、同事業売上高の57%がブランド商品からの売上高となる。特にタイにおいては「SEALECT」がツナ缶マーケットシェア57%、米国においては「KING OSCAR」が高級イワシ食品マーケットシェア66%と圧倒的シェアを誇る※5。
主に冷凍エビのレストランやホテルなどへのB2B販売がメインとなり、売上高の65%をOEM(他社ブランド製品の製造)が占める。売上高への貢献は高いが、収益性はやや劣る事業であり、2023年度の売上高に占める割合は約35%、粗利率11%と収益力は最も低い事業となる。
ペットフード事業は現在子会社であるi-Tail社が担っている。2023年度の売上高に占める割合は11%と小さいが、粗利率は約20%と缶食品事業を超える。同事業も現在は主にOEMであり、現在自社ブランド「Bellotta」等からの売上高は0.3%に留まる。
ユーロモニターによれば犬猫向けペットフード市場は2024年に1,473億ドルから、2029年には1,942億ドルと年平均成長率(CAGR)5.7%を見込む成長市場であり※6、同社は2024年から2030年までに売上高CAGR13〜15%という目標を立て、新製品の開発、北米および豪州でのリテールチャネルの買収などを進めている。
※5 FY2023Annual report | Thai Union
※6 FY2024 Analyst Meeting | i-Tail Corporation
同社は2024年11月、2030年までの企業戦略を発表した※7。業績目標としては、2023年の売上高39億ドル(1,362億バーツ)、EBITDA約4億ドルに対して、2030年には売上高70億ドル(2023年対比80%増)、EBITDA8億ドル(同比100%増)となる。この目標が如何に野心的であるかは、過去5年の同社業績から勘案して明らかだろう(図表3)。
この目標を達成するため、缶食品事業は自動化倉庫などのDXを推進しコスト削減し、削減分の40%を投資予定である。ペットフード事業では高付加価値製品の開発、ノンオーガニックでの成長を目指している。
企業戦略では触れられていないが、収益性の課題はOEM割合が大きいことも無視できず、今後、機能性食品事業との協業によるツナ缶や、冷凍冷蔵分野でも付加価値の高いブランド製品割合を如何に増加させていくがが鍵になるのではないか。今後6年で大胆なM&Aおよび研究開発投資の実施が予想される同社動向に注目したい。
※7 Thai Union unveils Strategy 2030 to achieve US$7billion revenue and double earnings in six years | Thai Union
THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant
榎本 里実 氏
メガバンクで法人営業に従事。2022年チュラロンコン大学サシン経営大学院(EMBA)卒業。2023年にMURCタイ入社。タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。
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