タイ製糖業 「グリーン化」への道筋-環境汚染への対応が急務

THAIBIZ No.151 2024年7月発行

THAIBIZ No.151 2024年7月発行スマートシティ構想で日タイ協創なるか

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タイ製糖業 「グリーン化」への道筋-環境汚染への対応が急務

公開日 2024.07.10

製糖業はタイ経済に重要な産業のひとつで、農業部門の収入と雇用を生み出す重要なファクターでもある。しかし、近年は世界的に環境問題に対する懸念が加速しており、タイの製糖業についても、輸出先による温室効果ガス(GHG)排出量削減への要請が急激に厳しくなっている。

製糖業は、グリーン化への移行余地が大きい産業として注目されているが、数々の障壁も存在している。気候変動による生産量の減少傾向、グリーン化を実現させる技術の不足など、多くの問題を抱えており、グリーン化への取り組みは容易ではない現状だ。

今回は、クルンタイ銀行の調査会社クルンタイ・コンパスの リポート「タイ製糖業のグリーン化への移行」を基に、製糖業の現状や抱えている課題、改善・向上に必要な技術などを解説し、日タイ企業のビジネス提携の機会についても紹介する。

GHG排出量削減への要請、求められる対応

製糖業は、年間1,000億バーツ以上の輸出収入を生み出しており、国内総生産(GDP)における農業セクターのうち、約9%を占めている。しかし同産業は、環境汚染を引き起こす産業であるとも言われている。製糖業から排出されるGHGは農業部門の総GHG排出量の10%弱を占め、全国のPM2.5総排出量の11%にあたる量を、この産業が生み出してしまっているからだ。

以前は輸出先のほとんどがアジア諸国であり、ヨーロッパの顧客ほど環境重視の姿勢が厳しくなかったため、まだ準備する時間があった。しかし、近年では世界各国の輸出先から GHG排出量削減の要請が強くなり、速やかな対応を迫られている。今後、この傾向はさらに強まるだろうと予想される。

GHG排出量の多さの一因は、野焼き

1トンの製糖には、約7,150キログラム(kg)の二酸化炭素(CO2)に相当するGHGが排出される。これは、トラックで約1万キロメートルを輸送する際の排出量に相当するという。この排出量の多さの一因は、収穫前に生産効率を上げるためサトウキビを燃やす農家が多いことだ。製糖業における排出量の現状を細かく見ると、収穫過程が80%を占め、製造工程が15%、残りは廃棄物や副産物など、付加価値製品の製造工程だという(図1)。

製糖工程における1トンあたりのGHG排出量

収穫前にサトウキビを燃やす理由

2023年2月24日、タイの農業経済事務局は「製糖工場にサトウキビを売る前に、なぜタイの農家はサトウキビを燃やすのか」の調査を行い、次のように報告した。

1. 生のサトウキビの収穫にかかる労働コストが、サトウキビの梢頭部(枝のさき)や葉を燃やした場合より高い

2. サトウキビ農場は、サトウキビ収穫機などの農業技術の利用に適していない

3. 労働力が不足しており、燃やしたサトウキビの収穫作業のみを受ける人が多い

4. 所有するサトウキビ収穫機の数が不十分

さらに同事務局は、調査結果からサトウキビ収穫機を利用している農家はわずか35.83%のみであり、野焼き削減のためにも収穫機の普及が課題であることを明らかにした。

グリーン化への未対応が、生産量の減少を招く

同リポートは、特に中小規模の製糖工場も、まだグリーン化の準備ができていない問題を指摘している。製糖工場の環境重視度を測る基準である「Bonsucro」規格に合格した工場の割合が、依然低いままだからだ。一方で、高いレベルのGHG排出は気候変動を加速させ、サトウキビの生産量を減少させる一因となり、タイのサトウキビ農家と生産者にとって大きなリスクとなる。

タイの農業研究開発庁の調査によると、2011年から2045年の間に累積で6,000~2兆9,000億バーツ、1年平均で180~840億バーツの被害がもたらされると予想されている。 特に、サトウキビの生産量は2046年から2055年にかけて25~35%減少すると予想されており、将来的には製糖業のサプライチェーン全体が原料不足の壁に直面するだろうとの見通しを示した。

グリーン化を加速させる必要性

同リポートでは製糖業がグリーン化を加速させる必要性について強調し、その理由として次の3点を挙げている。

1 . 輸出先からの要請への対応

世界の主要な輸出先は、持続可能な生産を重視している。ユニリーバやペプシコ、ネスレなどの大手食品・飲料メーカーは、すでに持続可能な基準を設定しており、基準に沿った生産がなされている原料のみを調達することで、環境や社会への負のインパクトを最小限に留めようとしている。例えば、コカ・コーラは「Principles for Sustainable Agriculture(PSA)」というサプライヤーの行動指針を設定し、再生可能エネルギー利用の最大化や、農作業によるGHG排出削減などの指針に基づいた調達を実施している。

2 . 副産物に価値を付加することで得られる副収入

 農業副産物を利用することで、さらなる付加価値が実現できる。例えば、サトウキビの搾りかす(バガス)などはバイオマス発電所の燃料として利用ができ、CO2排出量と電力コストの削減に貢献することができる。また、砂糖精製後に残る廃糖蜜(モラセス)もエタノール燃料の原料となる。

3 . 関係機関の本格的な支援

タイ工業連盟(FTI)やサトウキビ・砂糖委員会事務局(OCSB)などは、技術支援や投資資金の援助、投資関連便益の提供など、さまざまな支援を行っている。

製糖業の改善・向上に必要な技術

タイの製糖業を改善・向上させるためには、どのような技術が求められるのだろうか。同リポートでは、グリーン化を進めるために必要な技術として主に3つを挙げている。

1. サトウキビ収穫機の導入

サトウキビ収穫機は、サトウキビを燃やすタイ従来の方法から抜け出すための重要なファクターだ。収穫機を導入することで、収穫工程におけるGHG排出量を約80%削減できる。また収穫コストも1トン当たり約180バーツと、より安価になる。人力で行う場合の金額(約235バーツ)と比較すると、30%以上の削減となる。Mordor Intelligence社の調査によると、サトウキビ収穫機の世界の市場規模は2024年から年率22.6%成長し、2029年には約41億2,000万ドルまで伸びると見込まれている(図2)。

2024~2029年サトウキビ収穫機の市場推移

2. エネルギーの再利用技術

効率的な発電やエネルギーの再利用に関する技術のニーズもある。例えば、「エコノマイザーボイラー」を利用すれば、生産工程で失われてしまうエネルギーを回収し、発電などに再利用できる。

3 . 副産物の付加価値を高める技術

バイオマス発電所で工場内の電力を作り出すことや、モラセスでエタノールを製造する技術など、製糖の副産物に付加価値を持たせる技術も強く求められている。

あらゆるセクターの協力が成功の鍵

同リポートによれば、製糖業に関わるタイ企業とパートナーシップを組める可能性を持つ政府部門や民間部門は、多岐にわたる。例えばタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)では、サトウキビの品種開発や精密農業技術を活用したスマート農業の研究など、川上から川下まで製糖業の成長を支援している。

また、サイアム・クボタなど専門知識を持つ民間部門も、頼りになる存在だ。同リポートでは、あらゆるセクターと連携することで、製糖業のグリーン化に向けた技術的な向上をよりスムーズに推進できるとし、砂糖の生産をより効率的に拡大することもできると助言している。

既にタイ国内の多くのセクターが、製糖業のグリーン化を積極的に支援しているが、持続可能な農業を実現する知恵や技術は、日本にも多く蓄積されている。タイの製糖大手ミトポンのプラウィット最高執行責任者(COO)は、2021年にMediator社が主催した「オープン・イノベーション・トーク」に登壇した際、日本に求める技術について「製糖業の副産物をどのようにバイオマス技術を使って代替エネルギーへと転換できるかが、今後の大きな鍵となる。

副産物を活用して新たなサービスを開発できるバイオマス技術や、飼料用のバイオベース原料関連の技術などを求めている」と述べた。加えて、製糖業の副産物はさらに付加価値を高めることができるとし、日本企業と提携できる分野だと強調した。

悩めるタイの製糖業のグリーン化に、高い技術を持つ日本企業も参入できれば、同産業は大きく成長を遂げることができるだろう。

THAIBIZ編集部
翻訳・執筆:サラーウット・インタナサック
編集:白井 恵里子

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