点在するAI活用に“軸”を通す AI Native TOMが拓く経営OSのアップデート

THAIBIZ No.177 2026年9月発行

THAIBIZ No.177 2026年9月発行タイ宇宙産業に商機はあるか いま、民間企業が動くべき理由

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点在するAI活用に“軸”を通す AI Native TOMが拓く経営OSのアップデート

公開日 2026.09.10

前稿では、人工知能(AI)を“どこに使う”かではなく、AIを前提に会社の動かし方そのものを変える「AI Native化」が本質であり、その到達点は経営OS(社員一人ひとりの視座・行動指針・風土)のアップデートにあると述べました。本稿では「どう実行するか」に踏み込みます。多くの在タイ日系企業が“パッチワーク型のAI活用”に留まっている構造を拠点経営者の視点で解き明かし、それを越える一手段としてABeamが提唱する「AI Native TOM(Target Operating Model)」と、その先の組織の未来像を描きます。

変革待ったなしの拠点経営者が直面するAI活用の葛藤

拠点の経営層との対話では、本社から「AIを活用して変革せよ」というミッションだけが降り、リソースと手段は拠点任せであるという声をよく聞きます。これが拠点経営者が抱える最初の葛藤です。

さらに根深いのは、これまで変革のスキームは本社で確立後に展開されることが多く、「変革は本社起点」という受け身の意識が拠点に根づいていることです。

この姿勢は、変化の速いAI領域では決定的に不利に働きます。本社で確立してから展開する従来のスピード感では、成果が出る頃には前提とした技術も市場も変わってしまい、遅すぎるのです。

本社の最低限のガバナンスの枠内で拠点発の変革を推し進めること―それが、いま拠点経営者に問われています。

視線を拠点内に移すと、もう一つの葛藤が現れます。拠点経営者は“面”での変革を望む一方、多くの企業は縦割りで、部門横断に業務を設計し直す“横串機能”を持ちません。そのためAI活用は各部門の目が届く範囲(点)に閉じ、個別ツール導入に留まります。

個々の業務効率化も重要ですが、それだけでは人とAIの役割分担は変わらず、経営OSはアップデートされません。

では、これらの葛藤をどう乗り越えるのか。それは、経営が到達点を示すこと、現場がそこから逆算して業務を設計することです。この両輪が駆動してはじめて、経営にインパクトを与えるAI活用が始まります。

一つ目の要諦は、経営の意思を込めた“目指す姿”を拠点自らが描くことです。とある日系製造業では「AIにより経理部門の80%の業務時間をビジネス価値創出に充てる」と定義しました。具体的な到達点が示されたことで、収益データ集計・分析など、部門全体の効率化・高度化に資する“面”の活動が現場起点で生まれるようになりました。

二つ目の要諦は、業務がフルにAIへ置き換わった未来を現場が考えることです。「AI Native化」には経営OSのアップデートが欠かせません。そのための入口として、現場は目指す姿を前提に「自業務はどうなるべきか」を逆算して描く必要があります。この営みを通し、社員一人ひとりの視座が引き上がっていきます。

もっとも、本社ほどAIやデジタルトランスフォーメーション(DX)を構想できる経営リソースが潤沢でない海外拠点で、これらの要諦を押さえるのは容易ではありません。こうした状況の中でも変革の第一歩を踏み出す一手段が、AI Native TOMです。

AI Native TOMという設計図

AI Native TOMとは、領域ごとの標準業務モデルをベースに、AIがすべての業務を遂行・判断する前提で組み立てたオペレーションモデルです。現状業務を起点に「どこにAIを使えるか」を探すのではなく、目指す姿を先に描き、ロードマップへ落とし込む手法です(図表1)。

AI Native TOMには、変革を進める仕掛けが二つあります。まず、フルAI前提のモデルを土台に、目指す姿と現在地のギャップを埋めるグランドデザインを描けること。これは要諦の一つである経営の意思を込めた“目指す姿”を描くための仕掛けです。ゼロからの構想ではなく土台に対して自社の意思を重ねる形であれば、限られたリソースでも着手できます。

もう一つは、現場の視座を上げる仕掛けです。現場に「フルにAIを活用したら自業務はどうなるか」と問うても、AI知見や横断的視点が不足していては答えは出ません。AI Native TOMでは経理・人事など幅広い領域の業務がプロセスレベルで定義され、担当者は「自業務がAIに置き換わった姿」を具体的に着想できます。当社では、ある日系製造業とともに、経理領域における独自の“フルAI業務プロセス”の構想を進めています。担当者が未来から逆算して提案する光景が生まれており、これは社員の視座が上がっている証です。

目指す姿が定義され、現場での検討を通じて視座が上がってはじめて、変革は前進します。

全部門を「考える集団」へ

現場の視座が上がると、各部門は自部門ならではの視点で経営を考えるようになる、すなわち高付加価値業務へのシフトが起こります。

たとえば経理部は財務データをもとに事業リスクを経営へ上程し、人事部はあるべき人材ポートフォリオを提言する。各部門が会社の進むべき方向を語りはじめるのです(図表2)。

ここで重要なのは、経営を語るのが経営層だけではなくなる点です。各部門が「経営にどうインパクトを出せるか」を問いはじめた瞬間、管理間接部門は単に業務を処理する存在から、企業価値向上に向けて経営へ提案ができる存在へ変わります。

これが視座が上がるということであり、この変化こそが経営OSのアップデートです。個別業務にAIを当てはめ、点の改善を重ねる延長線上に、この景色はありません。業務を“面”で捉え、AIが担う前提で会社の動かし方そのものを描き直す。その先にはじめて、AI Nativeな企業の姿が広がります。

本社の号令を待つ必要はありません。本社ガバナンスの枠内という前提はあるものの、本社に比べて事業規模が一定程度限られ、現場と経営が一体で動ける海外拠点だからこそ、本社に先んじてAI Native化に挑戦できます。

そこで確立した成功モデルを本社へ“逆輸入”していく―その攻めの姿勢こそ、これからの海外拠点に期待される役割です。限られたリソースの中でも、自らの優先順位で描きはじめることはできます。AI活用に軸を通し、すべての部門が経営を語れるようになったとき、企業ははじめて、打ち手を自らの手で選べるようになります。その入口に、いま私たち在タイ日系企業は立っています。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Director

木口 郷 氏

商社、金融、製造業等、業界問わず、IT/DX戦略・企画領域から大規模システム導入プロジェクトに至るまで、ITライフサイクル全般に対するプロジェクトマネジメントを中心に15年以上のコンサルティング経験を持つ。グローバル企業に対するIT/DXガバナンス強化、システムリスク管理態勢強化、人材育成、IT-PMI等に関するアドバイザリー経験多数。
2024年9月よりABeam Consulting (Thailand) に赴任し、組織変革等のコーポレートストラテジーに携わりつつ、AI Initiativeを立ち上げ、AI人材の育成やAIプロジェクトの獲得に向けたアクション、社内でのAI利活用等をリード。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Manager

中村 京司 氏

製造業を含む多岐業界において、DX 戦略、組織・業務改革などのテーマで、構想策定から改革実行までを幅広く支援。近年は、AIを起点とした企業変革の推進に取り組む。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.

日本発、アジア発のNo.1グローバルコンサルティングファームを目指し、専門知識と豊富な経験を持つ約8,300名のプロフェッショナルと世界各地のアライアンスパートナーの「総合力」でクライアントの変革実現への挑戦を支援。タイ法人は2005年に設立。500名超のコンサルタントを抱え、東南アジア最大規模の拠点。

Tel : 02-610-1100
E-mail : [email protected]

Website : https://www.abeam.com/th/

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